時代遅れの殺し屋家業の寓話。ヤングマガジン連載中の『ザ・ファブル』の凄いところ、読みどころ【微ネタバレ有り】
元グラドルのミサキさんが可愛くてたまらん。という理由で毎週読んでいる男子も多いと思いますが、南勝久先生の漫画『ザ・ファブル』は、天才的な殺しの技術を持つ男の物語。
ファブル(寓話)というタイトル通り、殺し屋という異色の職業人を通じて、わたしたちの生き方を見直す教訓を与えてくれています。
当記事では、KCコミックスで出版されている最新刊の8巻以降の話題も少し触れています。ぜひとも読んでもらいたい作品なので、極力本筋のネタバレはしていませんが、微妙にストーリーが分かってしまう表現もあるかと思います。
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『ザ・ファブル』 " The fable " の意味は、イソップ童話などに代表される「寓話」です。人間を動物に投影して、人間の生き方を考え直させるような訓話や教訓を残す作品を言います。
子ども向けの童話のほかにも、スウィフトの「ガリバー旅行記」なども寓話の一種といえるでしょう。小人が住む国や、馬の国など、実際にありえない世界を旅する中で、ガリバーはわたし達の社会のあり方をシニカルに描いています。
この作品『ザ・ファブル』でも、主人公は今や時代遅れになりつつある殺し屋です。DNA鑑定や、あらゆるところに設置されている高感度の監視カメラのおかげで、ターゲットと向かい合って殺すスタイルの殺し屋は淘汰されつつある存在です。
病気や事故に見せかけて殺したり、痴漢の冤罪のように「社会的に抹殺」する手段など「殺し」の技術がよりソフィスティケートされる中、主人公のファブル(仮名:佐藤)は、天才的な技術で仕事をまっとうしてきました。
ほかにも、佐藤をサポートする記憶力抜群&酒豪の洋子(仮名)や、地方都市でインディペンデントに活動している暴力団の面々など、個性的なキャクターが登場しストーリーが展開します。
ここからは、ストーリーのネタバレではなく、週刊漫画としての『ザ・ファブル』の凄いところを紹介していきます。
【ザ・ファブルの凄技①】的確なコマ割りと、見開きで魅せる映画的な展開
佐藤が世話になる「真黒組」の若頭が登場するシーンでは、日本の人情モノ・ドラマで描かれるような、ゆったりした演出があり――、
このように、武闘派である若頭のこだわりが描かれている反面で、アクションシーンでは視点がテンポよく変わります。
また、下のような見開きでは、佐藤の平和な日常を絵で見せながら、影で進行している悪党達の会話を音で聞かせています。
【104話 貝沼親子‥‥。】
ぜひぜひコミックスで確認してほしいので、ここでは画質を落としていますが、セリフの部分が悪党が電話をしている会話内容です。
サイレントでほのぼのした場面を見せながら、緊張感のある会話を聴かせる映画的な演出。『ザ・ファブル』では、ほかにもこのような見せ場がたくさん登場します。
【ザ・ファブルの凄技②】登場人物が「生き活き」している(女の子も可愛い)
具体的な例を挙げるとちょっとアレなのですが、漫画の中には――
という絵がありますよね。10年以上前に大変ヒットした、落ちこぼれが東大を目指す漫画などは、視線が中空をさまよっていて怖かった記憶があります。
また、登場人物の描き分けがイマイチな漫画も読みにくい。コミックスで連続的に読む場合には気にならないのですが、週刊漫画誌の場合は連載スタートから読むとは限らないので、キャラクタに個性がないと読むのが億劫になってしまいます。
その点『ザ・ファブル』は、それぞれの登場人物の顔がひと目でわかるだけでなく、個々が非常に生き生きとしています。
また、女性の可愛らしい部分と、その反面で素の顔を見せた時の変わり様も見事。若くてキレイな女性だけでなく、場末のバーのママからは、酒焼けしたしゃがれ声が聞こえてきそうですし、中年ヤクザからは加齢臭が漂ってきます。
【ザ・ファブルの凄技③】アウトローな職業の方々のリアルな表現
以下の見開きも、先程のように絵とセリフがそれぞれ単独で表現されています。
悪党のボス(ウツボさん)が煙草を手にした時、自然に井崎(ウツボの手下・元真黒組組員)が火を用意して、灰皿を相手側に差し出す。という上下関係を明確に見せながら、会話ではボスが(寓話らしく)教訓を述べています。
このほかにも、「真黒組」でナンバー2の位置にいる若頭に対して、組員すべてが従順ではないことや、違う組同士なら年の差が離れていても、相手になめられないように横暴な口をきくシーンなど現代ヤクザをリアルに魅せています。
ちなみに、最低限のマナーは見についている井崎ですが、ここまでのストーリーではアウトローとして「どんくさい」ところを何度か見せており、このさき生き残るのは難しいと思われます。
(まとめ)世の中に悪意が存在する限り、フツーに生きるのって大変。ファブルは佐藤に変わることができるのか?
この記事を更新した時点では、週刊ヤングマガジン(2017年11号)に108話が掲載。コミックスの最新刊は、85話:テキーラの男で終わっています。
コミックス6巻では、同じ現場に遭遇した殺し屋を全く相手にしない状態で、楽々と圧倒したファブルですが、ヤンマガで進行している話では、それよりも明らかに強敵と対峙しつつある緊張感のある展開。
状況としては「一年間仕事せず(殺さず)にフツーに生活する」という縛りがあるので、さすがのファブルも、新しい敵となるクールなロン毛の悪党・鈴木(仮名)には手こずりそうです。
都会ではアウトローをそつなく倒し、森では熊にお仕置きするファブル兄さん。今回の悪党も、これまでのようにサクッとやっつけるのでしょうか? また、寓話としての「殺し屋の物語」は、ここから一体どこに向かうのか?
ファブルは、普通の生活=佐藤に生まれ変わって新しい人生をスタートさせるのか。それとも、これまでのしがらみから抜けられず「時代遅れの殺し屋」に戻るのでしょうか。
週刊ヤングマガジンでは、定期的に休載する漫画が多い中で、わたしが覚えている限り南勝久先生は毎週皆勤賞。電子版で購入しているので、これからも毎週日曜の深夜0時が楽しみです!
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最新刊の9巻は、2017年3月6日に発売予定